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アルジェリアの世界遺産――古代ローマ遺跡とサハラの大自然が織り成すアフリカの大地

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資源は誰のものか(4)―『環境会議』2013年春号より

大塚 雅貴(写真家)

「その国はいったいどこにあるのか」、1月16日に起きた人質事件の報道を見てはじめてアルジェリアという国を聞いた方も多いだろう。天然資源が豊富で荒涼とした大地が広がる一方で、実はローマ時代の華やかな生活文化を伝える遺跡やオスマン・トルコ時代の繁栄を伝える街並みなど7つの世界遺産がある観光資源豊かな国なのだ。地中海からサハラまで知られざるアルジェリアを紹介しよう。

アフリカのパリと呼ばれた首都アルジェ

北アフリカに位置し、地中海に面した風光明媚な港町が点在するアルジェリアは南部をサハラ砂漠に覆われたアフリカで最も国土の広い国だ。人口の90%が集中する北部は温暖な気候を利用してぶどうやオリーブ栽培が盛んでワイン生産も有名。一方、山脈を越えた南部には1年中熱く乾いた風が吹き、砂漠の民と呼ばれるトウアレグ族が地下水の豊富なオアシスでナツメヤシの栽培やヤギ、ラクダなどの放牧で生計を立て、遊牧民時代から脈々と受け継がれている伝統や文化を守り暮らしている。

イタリアのローマから空路約2時間で首都アルジェに到着し、飛行機から降りるとアフリカの眩しい太陽が照りつける。飛行場から車でおよそ1時間、首都アルジェの中心に着くとフランス統治時代の面影を残すブルーのバルコニーと白壁の建物が目の前に飛び込んでくる。丘の斜面につくられたアルジェの町は、丘の斜面につくられたために坂や階段が多く1番上まで登ると地中海を背にして町が見渡せる。

港に近いマルチール広場から丘を登って行く途中に世界遺産のアルジェのカスバある。建物との間を縫うように、路地が張り巡らされた町中は、1度入るとガイドなしではなかなか抜け出せない迷路のようなところだ。「カスバ」はもともとアラビア語で城壁を意味し、かつてこの地を支配した海賊が外敵の侵入を防ぐために築いたと言われている。職人などが暮らす下町のような風情が漂っていたカスバは、19世紀フランス植民地時代には、新市街建設のために多くが破壊された。今残るのはイスラムの都市づくりを現代に伝える貴重な町として人々から愛されている。

p1_カスバ

カスバで出会った女の子

p2_オラン

アルジェリア第二の都市、オラン

「ローマの穀倉」と呼ばれた繁栄を物語る遺跡

p3_ジェミラモザイク

ジェミラ遺跡博物館に展示されているモザイク

この国に7つある世界遺産のうち、3つが古代ローマの都市遺跡で、中でも標高900mの山間部に築かれたジェミラ遺跡には、およそ2000年経った今も神殿や半円形劇場、さらに浴場や市場などが遺されており、216年に建てられた凱旋門は圧巻だ。博物館を訪ねると、アフリカで最も美しいとされるモザイクコレクションがある。狩猟や農耕、幾何学模様やヴィーナスなどの色彩豊かなモザイクが壁全体に展示されており、これらの芸術作品も必見だ。かつて「ローマの穀倉」と呼ばれ、農業が盛んであったこともこのモザイクから垣間見える。

灼熱の大地が広がるサハラ砂漠

p4_サハラ砂漠

サハラ砂漠

一方、南部のサハラ砂漠では道路や井戸もない、気温40度を越える灼熱の大地が続く。「ぜひ砂漠の素晴らしさを体験してほしい」という知人の勧めで辿りついたのはアルジェから空路2時間のジャネットというオアシス。ここに暮らす砂漠の民、トゥアレグ族のガイドがラクダとともに砂漠を案内してくれる。砂は塵のような細かさで、手に取るとサラサラとこぼれ落ちていく。流れては落ち、流れては舞い、風が止んだ地上には美しい風の模様が出来上がる。砂丘を越えては、奇岩が並ぶ幻想的な光景。どこまでも続く砂漠に魅せられ、多くの旅人はこの地を再び訪れるという。

資源開発だけでなく自然や文化にも関心を

アルジェリアは1992年以降の内戦により7万5000人以上の死者を出した。およそ10年続いた内戦は経済を疲弊させた。外国企業の駐在者も減り、ヨーロッパからの観光客も激減した。その後、政府の治安維持体勢の強化によってテロも鎮静化し、2004年頃からは治安が改善されたのを機に観光客が訪れるようになった。現地旅行会社の数も増え、フランス語しか話せなかった現地ガイドたちの多くは世界中から訪れる観光客のニーズに合わせて英語をはじめ多くの言語を習得し、観光客も増加した。日本からの直行便はないが、ローマやパリ、カタールなどから国際線が毎日就航し、アクセスも便利になった。観光発展が加速しはじめた矢先に今回の人質事件は起きた。

アルジェリア周辺は残念ながら政情が不安定な国ばかりだ。夏には50度になる砂漠での治安維持は難しい。サハラ砂漠に鉄条網や人を配置することは不可能で、隣国リビアからの武器やテロリストの流入はもちろん防ぐことはできないだろう。そのためにアルジェリアでは常に多くの警官が市民の安全を守っている。彼らの置かれている状況を考えると、アルジェリアがこれまでいかに苦心して治安を守ってきたかがわかる。

今回のような事件や事故が起こらないと報道されることもないアフリカ諸国に、私たちはもっと日頃から関心を持つことが大切ではないかと思う。できれば現地の風に触れ、人々と言葉を交わし、そして興味と敬意を持って――。

砂漠の神秘に魅了された一人として、資源だけではなく、この国の自然や歴史にも関心を持ってもらえたら嬉しい。

『環境会議』2013年春号(3月5日発売)より抜粋。記事全文は本誌でお読みいただけます。

大塚雅貴(おおつか・まさたか)
日本写真家協会(JPS)会員。1968年、千葉県生まれ。高校卒業後、写真の製作会社に入社。その後アフリカ南部や中国、東欧などで長期撮影へ。1993年、写真家野町和嘉氏のサハラ取材に助手として同行。1994年、雲南省で元陽の棚田を取材。1997年、サハラ取材を続けるために、エジプトのカイロでアラビア語留学。1998年、経済制裁を解かれたばかりのリビアとその南部のフェザン地域(砂丘、岩絵、奇岩など)を取材。写真集『耕して天に至る 中国・雲南世界一の棚田』(毎日新聞社)、『美しきアルジェリア7つの世界遺産を巡る旅』(ダイヤモンド・ビッグ社)などがある。現在、サハラ砂漠の撮影を進めており、今秋の取材を計画中。

『環境会議2013年春号』
『環境会議』『人間会議』は2000年の創刊以来、「社会貢献クラス」を目指すすべての人に役だつ情報発信を行っています。企業が信頼を得るために欠かせないCSRの本質を環境と哲学の二つの視座からわかりやすくお届けします。企業の経営層、環境・CSR部門、経営企画室をはじめ、環境や哲学・倫理に関わる学識者やNGO・NPOといったさまざまな分野で社会貢献を考える方々のコミュニケーション・プラットフォームとなっています。
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